○廃墟(夜)

   複数の怪物が倒れ、緑色の血が飛び散っている。

   その中で一つの人影が立ち上がろうとし、壁にもたれかかる。

その姿を後ろから見ている女の子。

人影「はは、俺もヤキがまわったな……こんな事をして、一体これからどうやって……なぁ、おい」

女の子に話しかける。

答えを聞くことなくその場を去ろうとする人影。

   女の子、少し考えて何かを喋りかける。

(C・O)


タイトル


○喫茶店(昼)

テーブルを囲み上条優愛(17)と美月(16)、涼(19)、健(18)が座っている。

涼「で、なんで男にフラれたと思う?その子」

   真剣な顔で聞いている優愛。

美月「え~、どうして?」

   大仰な動作で涼。

涼「そいつさ、ホモだったんだよ」

   全員笑う。

美月「えー、可哀想」

健「ひっどいなあ」

   優愛、へらへら笑っている。

優愛(M)「私の名前は上条優愛。友達からは夢子って呼ばれてる。何故こんな変なあだ名になったかというと……」

   健と談笑していた涼、優愛の方を向い    

   て。

涼「そういやさ、夢子ちゃんは気になる男とかいないの?」

   きょとんとする優愛。

優愛「え?」

   身を乗り出してくる健。

健「あ、それ気になる~」

ちょっと困った表情の美月。

美月「あ~、ちょっとそれは…」

涼「え~、いいじゃんおしえてよ」

健「どうなの?夢子ちゃん」

優愛、へらへらした表情。

優愛「いるよ」

涼「へ~、どんな奴?かっこいい?」

優愛「うん、私が小さい頃にその人に助けてもらった憧れの人」

健「あ~、そういうのね、身長は?」

   なんともいえない表情の美月。

優愛「2mくらいかなぁ」

涼「え? 滅茶苦茶デカいじゃん、外人?」

優愛「う~ん、よくわかんない」

健「もっと教えてよ」

優愛「え~とね…私もよく覚えてな

いんだけど…とにかくすご~くかっこよかったなぁ~、まるでスー パーヒーローみたいな」

   ちょっとトリップ気味の優愛。

   周りの3人は多少引いた感じ。


○街角(昼)

街を歩く美月と優愛。

美月「いいよね~、優愛は夢があって」

優愛「いや~」

美月「でもさ、あんまり夢みたいな話ばっかりしてても駄目だよ! 折角の医大生だったのに」

優愛「あはは~……」

美月「私たちもう女子高生じゃなくなっちゃうんだから、今のうちに男をゲットしないと!」

優愛「……」

   困った表情の優愛。

   美月、少し考えて。

美月「ま、でもそういうキャラで売っていくのもありかも。そうだね。 今度はそういう方向で行ってもいいかもね! じゃあ私こっちの方向だから」

優愛「うん、またね」

   手を振り去っていく美月。

   それを見送る優愛。しばらくして、ため息をつく。

   振り返りとぼとぼ歩き出す。

優愛「はぁ~……」

   物陰から。

ギザまる「もし」

   びくっとして立ち止まる優愛。

ギザまる「もし」

優愛「え?」

   周りを見渡す優愛。

   その目の前にいきなりギザまるがあらわれる。

ギザまる「こんにちは」

眼を丸くする優愛。

優愛「……。」

ギザまる「あ……え~と……僕、ギザまるです。」

優愛「……。」

   無言でギザまるをぶったたく優愛。

ギザまる「うぎゃ!」

優愛「あはは、よくできてる玩具」

   腕を引っ張る優愛。

ギザまる「うわー、や、やめてください!」

優愛「へー、リアルな反応、どっかにマイクついてるのかな」

ギザまるを調べようといじくり回す優     

愛。

ギザまる「ちょ、ちょっと! そんなことしてる場合じゃないんです! 話を聞いてく ださ……」

   ギザまるが言い終わるか終わらない内    

   に2人の背後から衝撃音。

優愛「え!?」

   優愛が後ろを見るとブロック塀の破片         

   が転がっており、その先にアゼル(丸い物体形態)が浮遊している。

優愛「……」

   呆然としている優愛。

   物体は光を発し高速で突撃してくる。

ギザまる「危ない!」

   上から押さえつけ優愛を伏せさせるギザまる。

   アゼルは二人の頭上を通過する。

ギザまる「やめろ!アゼル!」

アゼル「メレクタウス! 邪魔するな!」

優愛「メレク……?」

アゼルはまた光を発し突撃しようとする。

ギザまる「くそぉ!」

   ギザまるはアゼルに体当たりし、ふっとばす。

ギザまる「優愛さん、こっちです!」

優愛「え? え?」

   ギザまる、優愛の手を引き走り去る。

   二人が去った後アゼルがゆっくり浮かび上がる。

アゼル「……あの女!」

FO


○路地裏(昼)

   走ってくる優愛とギザまる。

   立ち止まり、息を切らせている。

ギザまる「ここまでくれば……大丈夫でしょ

う。」

優愛「ねえ、なんなの、アレ、っていうか、君は」

ギザまる「すいません、彼の名前はアゼル、

僕の仲間です」

優愛「え、なんで仲間に私が襲われるの?あ

なた、悪い人なの?」

ギザまる「え~と……これには深い訳があり

まして……」

優愛「言えないの?」

ギザまる「いや、けしてそーいうわけでは」

優愛「ふーん、ま、いいや、実は私、こうい

うこと初めてじゃないんだ」

ギザまる「え……」

優愛「へへ、信じないかもしれないけど私、

小さい頃悪者に襲われたことがあるんだ

よ。人間じゃない。テレビや漫画に出て

くるような怪物に」

ギザまる「……」

優愛「でも心配しないで、助けられたんだ私、

あはは、当たり前だよね、ここにこうして

いるんだから」

ギザまる「……だれが、助けてくれたんです

か」

優愛「もちろん、スーパーヒーローに決ま

ってるじゃん、カッコよかったな~」

ギザまる「あはは……」

優愛「……なんてね」

ギザまる「え……」

優愛「この話、誰に話しても信じてもらえな

いんだ、小さい頃の事だし、夢でも見たん

だろうって……正直、私もそんな気がしてる」

ギザまる「そんなことありませんよ! 僕は

信じますよ! 優愛さんの話」

優愛「……はは、そうだね、ぬいぐるみが話

すことがあるんだから、希望が出てきたか

も」

ギザまる「僕はぬいぐるみじゃないです!」

優愛「ふふ」

ギザまる「はは」

   笑う二人。


○別の路地裏(夕)

   ホームレスが缶を拾っている。

ホームレス「へへ」

   物音がしてホームレスが音のほうを見ると、丸い物体形態のアゼルが浮いている。

ホームレス「な、なんだこりゃ……」

   アゼル、無言でホームレスの体を取り込む。

ホームレス「うわあああ!」

   路地裏に叫び声が響く。


○河原(夕)

   ジョギングする人、草野球をする人など。風景。

優愛とギザまるが歩いている。

優愛「ふ~ん、つまり宇宙人なんだ。君は」

ギザまる「端的に言うとそうです」

優愛「でもわかんないなぁ。なんで私が襲わ

れるの。なんか特殊な力でもあるのかな私

は」

ギザまる「……」

ギザまる、しばらく俯いているが、顔を上げて。

ギザまる「優愛さん、実は……」

   ギザまるが言いかけると、優愛が突然走り出す。

ギザまる「え」

   優愛は猫を追いかけるが、逃げられてしまい、帰ってくる。

優愛「あ~、逃げられちゃった」

ギザまる「いきなり追っかけるからですよ」

優愛「難しいな~」

   道端の小枝を振って遊ぶ優愛。その様子を見るギザまる。

ギザまる「優愛さん、やはり僕はアゼルを説

得しに行ってみようと思います」

優愛「そうだね~、友達同士、仲良くしなき

ゃ」

ギザまる「それでその間優愛さんには安全に過ごせる場所に居てほしいのですが、どこか心当たりありますか?」

優愛「う~ん、やっぱり警察とか……かなぁ」

ギザまる「じゃあそこまで僕が……」

   ギザまるが言いかけて何かに気づき目をやると、得体の知れない不気味な格好の男(アゼル)が立っている。

アゼル「今度こそ……殺す!」

ギザまる「しまった!」

優愛「あわわ」

うろたえ後ずさりする優愛。

ギザまる「逃げましょう! 優愛さん!」

   二人は猛ダッシュする。


○廃墟()

   薄暗い廃墟。走りこんで物陰に隠れるギザまると優愛、息を潜める。

   しばらくすると足音。入り口の光の中から逆光に照らされてアゼルの影が現れる。

アゼル「おとなしく女を引き渡せメレクタウ

ス……! 逃げても無駄だとわかっている

だろう!」

   物陰からアゼルのほうを伺う二人。

   ギザまる、出て行こうとすると後ろから優愛につかまれる。

優愛の心配そうな顔。

ギザまる、首を振りうなずく。

   周囲を見渡し大声で叫ぶアゼル。

アゼル「出てこいといってるんだ! おとなしく出てこんとここら一帯を吹っ飛ばすぞ!」

ギザまる「ここだ!」

   アゼルが声のほうに目をやるとギザまるが立っている。

アゼル「やっと出てきたな……女はどうし

た!」

ギザまる「アゼル……こんなことをしてなんになるんだ。」

アゼル「メレクタウス! 今ならまだ戻れる! 俺がとりなしてやる。組織に戻れ!」

ギザまる「アゼル! 僕はもう、何かを奪いい生きていくのはいやになったんだ!」

アゼル「馬鹿な……」

   アゼル、しばらく俯く。

   物陰から見守る優愛。

しばらくしてアゼル、柔らかな動きで。

アゼル「なぁ、メレクタウス。どうしてしま

ったんだお前は。昔の、奪い、殺し、踏み

にじることに対し何の感慨も抱かなかった、暗黒の美しさに満ちていたお前は何処に行ってしまったんだ。私は、あの頃のお前が好きだった。お願いだ。戻ってくれ。メレクタウス」

ギザまる「アゼル……僕は、もう戻れない!」

アゼル「何故だ! ……あの女か……やはりあの女、お前を狂わせたあの女! 殺してやる! 出せ! あの女を!」

ギザまる「アゼル、そんなことをしても無駄だ! 宇宙に帰るんだ!」

アゼル「ふざけるな! 貴様がどうしても邪魔するなら、俺は貴様を殺す!」

ギザまる「わかった。お前がそうしたいならそうしろ」

   両手を広げて棒立ちになるギザまる。

   物陰からそれを見て驚く優愛。

アゼル「な……」

ギザまる「どうした、やれよ」

   優愛、深刻な表情。何かを決心する。

アゼル「う……う……」

ギザまる「やれえええ!」

アゼル「うわあああ!」

金属の触手(?)を伸ばし攻撃するアゼル。

覚悟した表情(できるか!)のギザま      

る。

   衝撃音。地面に転がる金属の破片。

アゼル「う……ああ……」

   うろたえるアゼル。

   床に倒れている優愛、その下敷きになっているギザまる。

ギザまる「う……!……優愛さん、何故…

…血が」

優愛「はは……なんでだろ、体が勝手に動いちゃった」

ギザまる「ああ……どうしてこんなことに……」

優愛「いいんだよ、別に。私、ほんとに。だってさ、これから生きてたって大した事ないもの、つまんないことしかないもの」

ギザまる「そんな……!」

優愛「ああ、私、このまま死ねたらいいかもしれない、このまま、夢のままで」

ギザまる「駄目だ! 違う! 違うんだ!

あなたがそんなことを言っちゃいけない! だって……だってあなたのおかげで僕は……!」

優愛「……?」

ギザまるの体が光に包まれる。

それを薄れる意識で見る優愛、そして周囲すべてが光に包まれる。

アゼル「う……」

                (FO


○過去 廃墟(夜)

   複数人の男が倒れており、そこから立ち去ろうとする人影。

その姿を後ろから見ている女の子。

その姿が段々鮮明になっていきギザまるの真の姿になる。

ギザまるはその場を立ち去ろうとする。

女の子「ありがとう、ギザまる」

ギザまる「ギザまる? ……俺のことか?」

女の子「そうだよ、だって背中がギザギザだもの」

   俯き何かを考えるギザまる。

ギザまる「……ありがとう、か……そういえば今まで一度も言われた事がなかったかもしれない」

   やがて、顔を上げる。


○廃墟(夕)

光が収まり、人影がひとつ。

優愛を抱きかかえギザまる(真の姿)が立っている。

ギザまるの顔を見る優愛。

優愛「……そっか……そうだったっけ」

ギザまる、無言で優愛を立たせる。

   優愛、何故か立てることに驚く。

ギザまる「傷は治しました、すみませんこんなことになってしまって」

優愛「いいよ、ありがとう、また会えて嬉し

い、ちょっと覚えてたのとは違ったけど」

   見つめあい微笑む二人。

   それを遠巻きに見るアゼル。

アゼル「畜生……! メレクタウス! もう

いい! お前が俺のものにならないなら…

…お前を殺して俺も死んでやる! はああ

……!」

   アゼルの体がさらに異形化していく。

優愛「ギザまる……」

   不安な顔でギザまるを見る優愛。

   ギザまるは優愛の頭を撫でる。

ギザまる「大丈夫ですよ、あなたを必ず守ります。さ、隠れててください」

優愛「う、うん」

   優愛に逃げるよう促すギザまる、その後、アゼルのほうを向き直る。

ギザまる「来い!」

アゼル「メェレクタウスゥゥ!」

   激しいバトル

   戦いの中でギザまるは次第に劣勢になっていく。

   そしてギザまるに致命的な一撃が与えられ、ギザまるは膝をつく。

優愛「ギザまる!」

ギザまる「う……く……」

アゼル「死ね!」

アゼルが一撃を与えようとすると、頭に小石がぶつけられる。アゼルがその方向を向くと優愛がいる。

アゼル「このっ……!」

アゼルがそちらに敵意を向けた瞬間。

ギザまる「うわああああ!」

アゼル「っ……!」

   重い衝撃音。

   アゼルの腹部にギザまるの一撃が入っている。

   ×    ×    ×

   倒れているアゼル。

   それを見下ろすギザまると優愛。

アゼル「……殺せ」

   アゼルが虚空を見つめている。

   ギザまる、それに手を差し伸べる。

アゼル「……!?」

ギザまる「馬鹿なことを言うな、お前は僕の仲間じゃないか。」

アゼル「……メレクタウス……!」

   アゼルはギザまるの手をとる。

   それを微笑み見守る優愛。

                (FO


○河原(夜)

   星空、カメラが下がっていくとホームレスが倒れている。やがて気づく。

ホームレス「んあ、どーして俺はこんなとこ

に」

頭を掻きながら去っていくと優愛、ギザまる、アゼルが歩いてくる。

優愛が手を仰ぐ。

優愛「いや~、すごい星だね~、ギザまるた

ちが生まれた星もここから見えるのかな

ぁ」

   また小さい姿に戻っているギザまる、アゼルも竜のぬいぐるみのような姿に変わっている。

ギザまる「きっとあの辺でしょう」

アゼル「見えるわけないだろう、ここからは

100万光年以上離れてるんだ」

優愛「へえ~」

アゼル「のんきな事を言っている場合か……

これからが忙しいんだ。この銀河だけでも

一体どれだけの敵がいるか。」

ギザまる「大丈夫だ。きっとやれる。俺とお前なら」

優愛「うん、そうだよ! 絶対に大丈夫!」

アゼル「ふん……」

3人は立ち止まる。

ギザまる「じゃあ僕らは帰ります、ありがと

うございました優愛さん」

優愛「うん、元気でね、私も頑張るから、あ

りがとう!」

ギザまる「では、さようなら!」

   ギザまるとアゼルは空に消えていく。

   優愛は空に手を振り続ける。

   そして、しばらくして手を振り終わり優愛は向き直り歩き出す。すると後ろから声をかけられる。

美月「あれ~、優愛じゃない、ど~したのこ

んな夜遅くに」

優愛「あ~、うん。ちょっとね」

美月「ま~たアレでしょ。夢みたいな事言い

出すんでしょ、駄目だよ~。もう子供じゃ

ないんだから」

優愛「あはは、そうだね。ずっと、長い夢を

見てたのかも、子供の頃からずっと……」

   空を見ながら呟く様に話す優愛。

美月「? ……ねえ、それはいいけど、明日

の課題なんだったっけ。私それ聞きたくて

アンタに連絡してたのに全然電話でないん

だもん」

優愛「え~とね」

   二人は雑談しながら河原を歩いていく。

   だんだん画面が空に向かっていく。

 

(終わり)

(二百字詰め二十三枚